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福岡地方裁判所 昭和36年(行)10号 判決

飯塚市大字横田一二八番地

原告

梶原義一

右訴訟代理人弁護士

石田市郎

福岡市中比恵町一八番地

被告

福岡国税局長

大蔵事務官

斎藤整督

右指定代理人検事

上野国夫

法務事務官 奈良崎隆一

国税訟務官 神沢浩

大蔵事務官 権藤茂

大蔵事務官 小野毅

右当事者間の入場税不当課税更正処分の取消等請求訴訟事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、請求の趣旨

1  被告が昭和三六年一月二四日原告に対してなした、昭和三二年一月一日から昭和三四年四月三〇日に至る原告に対する入場税の課税標準額および入場税額に関する審査決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者双方の主張

一、請求の原因

(一)  原告は原告経営の興業に関する昭和三二年一月一日から昭和三四年四月三〇日に至る事業年度(以下単に本件事業年度という)の入場税額等につき別表第一のとおり飯塚税務署長に申告した。

(二)  ところが右飯塚税務署長は昭和三五年三月二六日原告に対して右申告にかかる入場人員を四六万一六二五人、課税標準となる入場料金収入を金二〇六〇万三四五〇円、その入場税額を金二三八万二二四〇円と各更正する旨決定して原告に通知した。

(三)  そこで、原告は被告に対してこれに対する審査の請求をしたところ、被告は昭和三六年一月二四日右飯塚税務署長の処分を一部取消して別表第二のとおりとする旨の審査決定をした。

(四)  しかし別表第一と矛盾する被告の審査決定は違法であるからこれを取消して更に別表第一のように決定することを求めるため請求に及ぶ。

二、被告の答弁及び主張

(一)  請求原因に対する答弁 請求原因(一)乃至(三)の事実は認める。(四)の事実は争う。

(二)  被告の主張

1 課税の対象および方法

原告は福岡県飯塚市大字飯塚に中央映画劇場を、同県嘉穂郡嘉穂町大字枝国に枝国映画劇場をそれぞれ所有して映画興業を営んでいる。

被告は原告に対する右映画劇場に関する入場税の賦課について実額課税の方法によらず資産負債増減法によつて推計課税を行なつた。

2 資産の増加額

昭和二九年一二月三一日(期首)から昭和三四年四月三〇日(期末)までの間の原告の資産・負債の増減はつぎのとおりであつて、合計金一二二二万三九六二円の増加となる。

資産

〈省略〉

負債

〈省略〉

3 興業所得額の算出

(1) 資産増加額に対する加算

原告のこの期間内における生活費および営業のための経費とならない公租公課は既に支出済のものであるが、資産の一部をなしていたものであるからこれを加算する。

生活費は、原告の家族構成が四人であつてその一人当り月額を五〇〇〇円と推定すべきであるから、その期間中の合計額金一〇四万円。公租公課は金七五万七九〇五円。合計金一七九万七九〇五円である。

(2) 資産増加額からの控除

入場税課税の対象とならない興業外の収入はつぎのとおりであつて、これを資産増加額から控除すべきである。

イ 売店所得 金四七万六六四〇円

右は被告管内の同一立地条件の映画館における平均収入から推定したものである。

ロ 鉱害補償金

原告が本件事業年度中に訴外日鉄鉱業株式会社から鉱害補償金として受領した金額およびそれぞれの用途に支出した残額はつぎのとおりである。

(イ) 家屋関係補償

〈省略〉

右の他、昭和三一年に休業補償費六〇万円がある。内金一〇万円は被害補修等に費消されたもの、残金五〇万円はすでに原告の申告すべき興業所得額に算入し後の4で控除することになつているものである。

(ロ) 農地補償

〈省略〉

従つて、資産増加額から控除すべき鉱害補償金残額の合計は金一五三万〇〇七九円となる。

ハ 田畑所得 金一八万三九八八円

ニ 預金利子 金 九万九七八八円

合計 金二二九万〇四九五円

結局右の加算および控除を経た金一一七三万一三七二円が前示の期間における原告の興業による所得である。

4 興業収入額の算出

(1) 右の計算によつて得た興業所得額から原告の申告すべき興業所得額金五八三万一二一三円を控除すると、差引金五九〇万〇一五九円が脱漏していることが明らかである。

なお、右の申告すべき興業所得額とは、原告の申告にかかる営業収入および経費等を基礎に被告において税務計算を行なつて算出した所得額であり前記休業補償費中の五〇万円を含む。

(2) そこで、原告の入場税額を算定するにあたつては、申告すべき興業所得額を金五八三万一二一三円、脱漏所得額を金五九〇万〇一五九円として税法所定の計算を行なわれなければならないわけである。

ところが、被告は本件審査決定の当時調査漏れがあつたため、申告すべき興業所得額を金五九三万一二一三円、脱漏所得額を金五五〇万〇一五九円としたために現実に課税すべき額より低い額を課税する旨の決定をした結果となつた。

右審査決定における入場税額算出方法はつぎのとおりであつた。

原告申告の興業収入額の昭和三〇年から昭和三四年までについて、各年度分の総計額中に占める比率に応じて脱漏所得額金五五〇万〇一五九円を按分加算し、課税標準額および税額の算出の基礎となる正当な興業収入額を算定する。

その結果、本件事業年度における各年別の興業収入額は別表第三のとおりとなる。

(3) つぎに本件事業年度分の興業収入額につき、各月別および料金別にいずれも原告の申告額の比率に従つて按分計算して月別、且つ料金別の収入額、入場人員を推計する。原告申告の月別、料金別の収入額ならびにその比率は別表第四および第五のとおり、これに対応する正当な収入額およびこれから推定される入場人員は別表第六のとおりである。

5 課税標準額および入場税額の算出

別表第六に算出の各月別収入額につき、税率毎に一括してこれを一に税率を加えたもので除して課税標準額を算出する。但し、一〇〇位未満は切り捨てる。これに各税率を乗じ、一〇位未満を切り捨てて入場税額を算出する。その詳細は別表第七のとおりである。

以上によつて得られる本件事業年度の課税標準額、入場税額および入場人員は別表第二のとおりであつて、被告が原告対してなした審査決定と一致する。

三、被告の主張に対する原告の答弁

(一)  被告主張1の事実は認ゆる。

(二)  被告主張2の事実について

資産増加額を否認する。これを詳細に述べると、つぎのとおりである。

資産

〈省略〉

1 建物は被告主張のほか別紙第八記張のとおり価額金一二〇万円相当の物件を所有していた。

2 期首における債権の内訳はつぎのとおりである。

(1) 昭和二六年四月頃訴外豊福荒助に貸付けた金五〇万円

(2) 昭和二七年五月二〇日訴外大賀剛之助に貸付けた金五〇万円

(3) 昭和二八年一二月頃訴外山本ナカに貸付けた金二〇万円

(4) 昭和二九年一二月頃訴外浦江善則に貸付けた金三〇万円

負債

前受金 〇 一六八万 一六八万

借入金 〇 五八七万 五八七万

未払金 〇 五九万〇八九〇 五九万〇八九〇

合計 〇 八一四万〇八九〇 八一四万〇八九〇

1 期末に被告主張のような負債が存在することは争わない。

2 期末における前受金として更に被告が受取手形として記載した金三六万円を加算すべきである。

3 期末における借入金として更に訴外西川吉秋から借受けた金三〇万円を加算すべきである。当時は未払であつた。

4 期末における未払金として更に金二七万〇八九〇円を加算すべきである。その内訳はつぎのとおりである。

(1) 訴外嶋田敬夫に対する電気工事未払金三万七五五〇円

(2) 訴外入江真澄に対する映画館内売店菓子代未払金一〇万円

(3) 訴外総合自動車株式会社に対する宣伝カー修理代未払金一万八二四〇円

(4) 国(飯塚税務署長)に対する入場税滞納金九万三四三〇円

(5) 訴外飯塚市長青山了に対する固定資産税および市県民税滞納金二万一六七〇円

原告の資産、負債の増減は以上のとおりであつて、差引資産の増加額は金五一九万三〇七二円にとどまる。

(三)  被告主張3の事実について

1 (1)の事実は認める。

(2)のイ、ハ、およびニの事実は認める。

2 (2)のロの事実は争う。

鉱害補償金として受領した額および期末における残金はつぎのとおりである。(但し、空欄は被告の主張額を認めるものである。)

家屋関係補償

〈省略〉

農地補償

〈省略〉

従つて資産増加額から控除すべき鉱害補償金の残額は合計金三一三万〇五五六円である

3 被告主張の期首から期末までの間に原告は被告主張のほかになお次のような収入を得ているところ、右は興業外の収入であるからこれらを資産増加額から控除しなければならない。

(1) 別紙第八記載の建物を訴外梶原久隆に売渡した代金八一万円を受取つた。

(2) 前示原告の答弁(二)の2に記載の貸金の弁済としてつぎのとおり合計金一五〇万円を受領した。

イ 昭和三〇年一二月三一日から昭和三三年一二月三一日までの間に訴外豊福から五回にわたり合計金五〇万円

ロ 昭和三〇年一一月末日から昭和三三年八月五日までの間に訴外大賀から四回にわたり合計金五〇万円

ハ 昭和三二年八月および同年一二月の二回にわたり訴外山本から合計金二〇万円

ニ 昭和三〇年一二月三一日から昭和三二年一二月三一日までの間に七回にわたり合計金三〇万円

(四)  被告主張4の事実について

(1)に記載の事実中原告の申告すべき興業所得額を争う。金五九三万一二一二円が正当である。脱漏所得が存在することおよびその数額を争う。

原告の申告にかかる所得額(2)、(3)各本文および別表第三ないし第五に記載のとおりであることを認める。別表第六記載の所得額および人員数を争う。

(五)  被告主張5に記載の数額を否認する。

第三、証拠

原告は甲第一乃至一三号証を提出し、証人林田計清同梶山勝一(第一、二回)、同梶原久隆、同豊福荒助、同大賀剛之祐、同山本ナカ同浦江善則、同高倉一夫、同笹栗スマ子、同横畠和子、同嶋田敬夫、同入江真澄、同野上藤三郎、同桐山鉄雄、同渡辺正、同矢野和正、同小山敏行、同川辺増雄の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第二三号証の三、同第二四、二五号証、同第二八号証、同第三一、三二号証、同第七四乃至八一号証同第八二号証の一乃至四同第八三、八四号証の各成立は不知同第四四号証の成立は否認する、その余の乙号各証の成立は認めると述べ被告指定代理人は乙第一乃至一〇号証同一一号証の一、二、同第一二乃至二二号証同第二三号証の一乃至三、同第二四、二五号証同第二六号証の一、二同第二七、二八号証、同第二九号証の一乃至三同第三〇乃至三二号証同第三三号証の一、二同第三四乃至三九号証、同第四〇号証の一乃至七同第四一号証の一、二同第四二乃至五〇号証同第五一号証の一、二同第五二乃至七二号証、同第七三号証の一、二同第七四乃至八一号証、同第八二号証の一乃至四、同第八三、八四号証を提出し、証人上野正二同吉田弥一同平田松雄同野見山秋雄同原田喜雄同高倉一夫、同松尾金三、同入江真澄、同結城雅彦の各証言を援用し、甲第五乃至七号証、同第一三号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、当事者間に争いのない事実

原告が福岡県飯塚市大字飯塚に中央映画劇場を、同県嘉穂郡穂波町大字枝国に枝国映画劇場をそれぞれ設けて映画興業を営んでいること。原告が経営の興業に関する昭和三二年一月一日から同三四年四月三〇日に至る事業年度の入場税額につき、飯塚税務署長に対し原告がその主張どおり申告をなしたこと、飯塚税務署長が右原告の申告に対し、原告主張の内容の更正を行ない、原告にその旨通知したこと。原告が右更正決定に対して審査の請求をしたところ、原告が原告主張の日時にその主張どおりの内容の審査決定を為したこと。

被告が原告の入場料収入を算定するに当つて、資産負債増減法を用いて推計を行なつたこと、被告主張に係る原告の資産中、期首および期末における預金、車輌、機械装置、土地の価額、期末における出資金の価額、原告の興業所得額算出において、資産増加額に加えられるべき生活費、営業のための経費とならない公租公課、原告の興業外収入の中売店所得、日鉄鉱業株式会社二瀬鉱業所から受領した各鉱害補償金の額右補償金中の休業補償費については内金一〇〇、〇〇〇円は被害補修費として費消したこと、田畑所得および預金利子金額。以上は当事者間に争いがない。

二、被告の採用した課税方法の合理性について

証人上野正二の証言、同平田松雄の証言、同証言により成立の認められる乙第二および一〇号証、証人小山敏行の証言、同証言により成立の認められる乙第四および六号証、証人矢野和正の証言、同証言により成立の認められる乙第八号証、右証人および各号証により成立の認められる乙第一、三、五、七および九号証証届野見山秋雄の証言により成立の認められる乙第一一号証の一、二、同第二二号証、同第二三号証の一乃至三同第二四、二五号証、同第二六号証の一、二同第二七、二八号証、同第二九号証の一乃至三、同第三〇乃至三二号証、同第三三号証の一、二同第三四乃至三八号証を総合すれば、原告は、係争期間の入場料収入について税務署係官の調査に非協力的で入場人員領収した金額その他業務に関する重要な事項等を記載した正確な帳簿を備えつけていなかつたうえ、入場者の一部について入場の際入場券の半券を入場者に渡さず再度同一の入場券を発行する所謂タライ廻しの方法に入場券を使用していたこと、その為被告は原告経営の映画館の正確な入場人員、料金を把握することができず、やむなく資産負債増減法により昭和二九年一二月三一日を期首とし昭和三四年四月三〇日を期末としてその期間(以下単に係争期間という)における期首および期末における原告の資産および負債を調査し、差引資産増加額一、二二二万三、九六二円を算出し、これから原告の興業外収入を控除して興業所得額を算出し、これから原告の申告にかかる営業収入および経費を基礎にして被告において税務計算を行なつて係争期間中の前記休業補償費内金五〇万円を含めて原告の申告すべき所得額(その金額は五八三万一、二一三円となるべきものである)を算出し、これを右興業所得額から控除して原告の係争期間中の脱漏興業収入額を算定したものでありその金額は五九〇万〇、一五九円となるものであるが、被告は、本件審査決定の当時調査漏れがあつたため、原告の申告すべき所得金額を一〇万円多い五九三万一、二一三円とし係争期間中の脱漏所得額を四〇万円少ない金五五〇万〇、一五九円としてそのうち昭和三二年一月一日以降の本件各年度分につき課税することとし原告の各月の料金別入場料金収入申告額の比率に応じて按分し、係争期間中の各月における原告の脱漏興業収入額を算出しこれをもつて申告漏れ入場収入額としたことが認められる。前記の如き事情の下においては被告が推計により原告の所得を算定したことは誠にやむを得ないものであり又その推計の方法として前示資産負債増減法を採用し原告の所得を把握し前述の如き計算により各月の原告の脱漏収入額を算出したことは最も合理的なものというべきである。

三、係争期間中における原告の負債増減について

(1)  原告主張の期首の現金三五〇万円について

原告主張に沿う証拠として、成立に争いない乙第三九号証(原告の福岡国税局協議団に対する回答書)中には原告が期首(昭和二九年一二月三一日現在)に三五〇万円の動産を有する旨の記載部分があり、原告本人尋問の結果中には、原告が期首において計三五〇万円以上の架空人名義の預金および現金を有しており同号証中の動産はこれを指す旨の供述があり、又成立に争いのない乙第四四号証中には右三五〇万円の使途について、原告が昭和二九年一二月購入した土地の代金五〇〇万円の支払いに充てたとの部分がある。

然し乍ら同号証中の記載によれば、右支払は同年一二月二八日までになされたというものであつて期首より前の時点で費消されたことになるのみならず証人上野正二の証言および成立に争いのない乙第四五号証によれば、原告の右土地の購入は、昭和三〇年末でありその代価は、すべてその頃、原告の西日本相互銀行からの借入れ金六五〇万円によつて支払われていることが認められる。そうすると右原告主張に沿う各証拠は俄に信用できないし、他にこの点に関する原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(2)  原告主張の建物について

原告主張の建物の価額が現実に幾許であるかはともかく証人上野正二の証言および成立に争いのない乙第四二号証によれば、昭和三五年一〇月当時においても右建物は原告の所有名義となつており、課税対象物件として飯塚市において処理されていたものであることから、被告は右建物が期首および期末のいずれかにおいても原告の所有に属したものとして前示推計に当り資産の増減に関しないものとして処理したことが認められる。

係争期間内における資産減少として原告の主張する右建物譲渡に関し、成立に争いのない甲第一号証、証人梶原久隆の証言、原告本人尋問の結果中には、昭和三〇年一〇月頃、原告から右久隆に右建物を代金一二〇万円(甲第一号証)または八六万円(証人梶原久隆の証言、原告本人尋問の結果)で売渡した旨の部分があるが、いずれも乙第四二号証および前記本件建物の所有名義に俄に信用できない。

(3)  原告主張の期首における債権について

証人豊福荒助、同大賀剛之祐、同山本ナカ、同浦江善則の各証言中にはそれぞれ原告主張に副う部分がある。

然し乍ら右各証言はいずれも借用証書は破り捨てたと称するもので、右各証言を裏付けるに足る書証は全く存在せずその他内容においても不自然であつて直ちに信用できない。

(4)  被告主張の受取手形(小切手)三六万について

証人結城雅彦、同上野正二の各証言および成立に争いのない乙第七三号証の一によれば、本件期末において原告が訴外博多興業株式会社から受領した金額三六万円の小切手を有していたことが認められる。右認定を動かすに足りる証拠はない。従つてこれを期末資産に計上するのは当然であり、原告主張の前受金であるかどうかは、負債の項目において控除の対象になるかどうかを論ずれば足るものである。

四、係争期間の期末における原告の負債について

(1)  原告主張の前受金について

原告は控除すべき期末負債として、被告主張の前受金一三二万円のほかに、前受金三六万円があり、前記小切手がこれに当ると主張し、原告本人尋問結果中には右主張に副い、博多興業株式会社から前払賃料として約定の一三二万円のほか特別に三六万円の支払を受けた旨の供述部分がある。然し右供述部分はたやすく措信できず、却つて成立に争いのない甲第四号証及び前掲結城証人の証言によれば、右小切手は前記前受金(右前払賃料)一三二万円の内金三二万円の支払いとして受領したものであることが認められる。

(2)  訴外西川吉秋からの借入金三〇万円について

証人松尾金三の証言および成立に争いない乙第四〇号証の六によれば昭和三二年七月頃原告は西川吉秋から金三〇万円の借入れをしたことが認められる。

然し乍ら同証言および同証言により成立の認められる乙第七六号証によれば、右原告の債務は係争期間内である右借入れの時より一年以内に弁済されたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。従つて右債務が期末に残存していたものとは認められない。

(3)  訴外嶋田敬夫に対する電気工事代金未払金三万七、五五〇円について

証人嶋田敬夫の証言および同証言により成立の認められる甲第五号証によれば、原告は昭和三四年四月三〇日現在の本件期末において、右嶋田に対し右主張額の電気工事代金の債務を負担していたことが認められる。従つて右債務三万七、七五〇円は期末未払金として控除さるべきである。

(4)  訴外入江真澄に対する映画館内売店菓子代金一〇万円の未払金について

証人入江真澄の証言および同証言により成立の認められる甲第六号証(同証人作成の残高証明書)中には原告主張に副う部分がある。

然し乍ら同証言の内容を検討すれば、当該菓子販売の営業は同証人の亡妻が生前同証人とは別個に経営していたものであつて同証人自身は何ら営業に関与したことはなく、未払代金額についても真澄の妻が原告経営の映画劇場内売店の商品として継続して卸売納入していた菓子の代金がかつて一〇万円以上に達していたことがある旨を同証人が過去において妻より聞いていたことから原告主張の売掛代金債権があるものと推測するというものであり、同号証も同様に単なる想像に基づくものであつて右証言および乙号証は俄に信用できない。

(5)  訴外綜合自動車株式会社に対する宣伝カー修理代未払金一万八、二四〇円について

証人野上藤三郎の証言および同証言により成立の認められる甲第七号証によれば、期末において原告はその主張どおりの修理代金債務を負担していることが認められる。

従つて右債務一万八、二四〇円は期末未払金として控除さるべきである。

(6)  国に対する原告の入場税滞納金九、三四〇円について

成立に争いのない甲第八号証によれば原告はその主張額の入場税を滞納していたことが認められる。

然し乍ら同号証によれば同時にそれはまさに本件係争期間中における既申告分の入場税と認められるのであつて同一期間中の入場税額算定に当り顧慮すべからざるものであることは当然である。

(7)  訴外飯塚市に対する固定資産税および市民税滞納金二万一、六七〇円について

成立に争いのない甲第九号証によれば、原告は昭和三二年度においてその主張どおりの税金について未納となつていることが認められる。

従つて右滞納税額については期末負債に組入れて控除さるべきである。

五、興業外収入として控除すべき補償費について

(1)  休業補償費六〇万円について

右の内一〇万円については設備被害補修費として費消したこと当事者間に争いがないから控除すべからざるものである。また証人上野正二の証言によれば残りの五〇万円については、興業収入中入場料金でないものとして原告の係争期間中における申告すべき興業所得額に加算していることが認められるのであつて被告は本件入場料収入額を算定するに当り期間中の増加資産額から最終的に控除することとしたため更にこれを総資産額から控除する必要なしとして処理したものであり本件係争期間中の興業外収入として重ねて控除する必要はない。

(2)  家屋関係補償について

(イ)  住居等補償について

証人上野正二の証言、同証言により成立の認められる乙第七八号証および原告本人尋問の結果によれば、右住居等補償金一四〇万円中三〇万円は期間中に既に住居補修費に費消されていることが認められる。

従つて右住居等補償費の期末における残額は一一〇万円となり、被告において興業外収入としている右一一〇万円を超える金額三〇万円は控除を要しないものというべく、その控除を求める原告の主張は理由がない。

(ロ)  映画館補償金一二八万五、〇〇〇円について

証人梶山勝一(第一回)の証言によれば、右金額中訴外鈴木建設株式会社が請負つた枝国中央映画劇場の鉱害復旧工事の請負代金として同会社に内金六八万円が支払われたが右鈴木建設が請負つた工事の内容は、家揚工事、およびそれに係わる基礎工事、盛土工事、石垣工事のみであることが認められ、証人原田喜雄、同渡辺正の各証言およびこれにより成立を認める乙第八四号証を総合すれば、原告は右映画館の木工工事、左官、屋根等について自ら工事を施行し残額金六〇万五、〇〇〇円は全部右自己工事に投入され従つて原告は当該補償金のすべてを被害復旧に費消したものと認められるのであつて控除すべき剰余金の残存を認めることはできない。

(ハ)  農地補償金について

成立に争いのない甲第一一号証によれば、係争期間内に原告の受領した農地補償金額は計三六万五、二九七円あることが認められる(同号証中一部違算がある)。

被告は、農地補償中三五%は当該農地につき支出したものとして控除から除外して計算しており証人上野正二の証言によれば、被告は日鉄鉱業株式会社からの回答書(乙第七七号証)に基づき受領金額を三二万二、八〇三円として右金額より当該農地に係わる公租公課、管理費等を三五%と推定しこれを差引くこととしたものであることが認められる(乙第七七号証の記載金額は計上洩れがあるものと認められる)。

然し乍ら農地補償はそもそも右の様な費用等を一切考慮したうえ、純然たる得べかりし利益の喪失による損害を填補する額により支払われるのが通常であり資産負債増減法を採る以上現実に興業外の収入として受領した金員はすべてこれを控除するのが相当であるから控除額より除外すべき特段の事情が認められない本件においては、被告主張の右三五%相当分一一万二、九三八円についても受領総額における前記認定額と被告主張額との差額金四万二、四九四円とともに控除すべきである。

六、結局、本件においては、訴外嶋田敬夫に対する電気工事未払金三万七、五五〇円、同綜合自動車株式会社に対する宣伝カー修理代未払金一万八、二四〇円飯塚市に対する固定資産税および市民税滞納金二万一、六七〇円は原告の期末における負債として資産から控除すべきであり農地補償金に関する三五%分一一万二、九八三円および前記認定差額四万二、四九四円も原告の興業外収入として控除すべきである。

然して右合計は二三万二、九三七円であり、前述の如く被告は調査漏れ等の為本来算出さるべき金五九〇万〇、一五九円より四〇万円少ない金五五〇万〇、一五九円を脱漏入場料収入として課税する旨決定しているのであるから被告の前記控除項目の脱漏は本件被告の審査決定自体にはなんら原告の利益を不当に侵害するものではない。

よつて原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安東勝 裁判官 渡辺握 裁判官 蜂谷尚久)

別表第一

〈省略〉

別表第二

〈省略〉

別表第三 年別興業収入額

〈省略〉

別表第四 月別興業収入額

〈省略〉

別表第五 料金別興業収入額

昭和三二年

〈省略〉

〈省略〉

別表第六 被告主張の料金別興業収入額(右側 入場人員 左側 興業収入額)

〈省略〉

〈省略〉

昭和三三年

〈省略〉

〈省略〉

昭和三四年

〈省略〉

昭和三三年

〈省略〉

〈省略〉

昭和三四年

〈省略〉

別表第七 入場税課税標準額及び入場税額

昭和三二年

〈省略〉

昭和三三年

〈省略〉

昭和三四年分

〈省略〉

別紙 第八

飯塚市大字徳前六六六番の八

家屋番号 西町二七九番の二一

一、木造瓦葺二階建居宅一棟

建坪五九坪八合一勺 外二階 五六坪八合一勺

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